筋肥大に効果的なのは量か強度か
- NAOKI TAMURA
- 2024年6月28日
- 読了時間: 10分
効率よく筋肥大をするには何がベストなのか。
そのような疑問はかっこいい身体を目指すトレーニーなら誰もが考えることだと思います。
今回は筋肥大を目的とするなら強度を重視すべきか、量を重視すべきかという疑問について書いていこうと思います。
漸進性の原則と3つの方法
トレーニングには「漸進性の原則」というものがあります。トレーニングをしていて身体の強さが高まるにつれ、トレーニングの負荷も同時に高めていきましょうというものです。
ではこの負荷の高め方はいくつあるでしょうか。
これは3つの方法があります。
1つは重さを増やすこと、2つ目はレップ数を増やすこと、そして3つ目はセット数を増やすことです。
これらのうち、どれを増やすべきかという質問の答えは「それら3つのうちのいくつかを増やす」が答えになります。
ただ、その中でもセット数の漸進が先行研究では最も十分な裏付けがあります。
ではなぜそうなるのか、他のを増やすことでどうなるのかなど、そういったことを説明していきましょう。
筋肥大トレーニングとストレングストレーニング
10回3セットや5回5セットなど、筋力やパワー、筋肥大において最適と言われている回数×セット数があります。それらは長年の研究の結果わかってきたもので、一般には「高重量低回数(90%RM×3~5rep)」が筋力を、「中重量高回数(70~85%RM×8~12rep)」が筋肥大を促すと言われています。これは間違いはないですが、筋肥大に特化したトレーニングを考えた際、この考え方はストレングストレーニングにおける方法が引き継がれただけという側面があるということを理解しておく必要があります。
筋肥大の要素は線維性筋肥大と筋形質性筋肥大など種類があり、実のところ5回5セットでも20回3セットでも筋肥大は起こります。
つまり、ストレングスの基本原理は押さえつつ、筋肥大の反応を起こすために重量や回数などを工夫するということが正解になります。
筋肥大の基本原理
量か強度かを話す前に、押さえておきたい知識として、筋肥大というものの基本原理を話しておきます。
筋肥大というのは2つあり、筋肉の細胞が増える筋線維性肥大(色んな呼び方があります)と、1つの筋細胞自体が大きくなる筋形質性肥大の2種類です。
1つ目はわかりやすく、細胞の数が増えるので筋力も大きさも増えるといったものです。2つ目の筋形質性肥大は、1つの筋細胞、つまり筋肉の部屋が大きくなるといった感じで、筋肉の部屋の主な役割はグリコーゲンの貯蔵など、エネルギータンクの役割を担っています。なので、筋形質性肥大は理論上筋細胞は増えないので筋力が上がることはありません。しかし、エネルギーの部屋が大きくなることで、同じ重量におけるレップ数は増える可能性があります。
ボディビルダーが長い時間高重量を扱えるのは、この筋形質性肥大による大きな筋肉が影響しています。逆にウエイトリフターの方がボディビルの人より見た目が細くとも、大きな重量を扱えるのは筋線維性肥大が影響していると言えます。
現実にはこれらどちらかだけが起こるのではなく、同時に起こるとされています。(トレーニングの内容によって変化あり)
起こし方はいくつかありますが、代表的なのは筋張力の発生、つまり重いものを持つという行為そのものが反応を促すというものと、筋肉自体の損傷、生理学的ストレスの3つが代表的なものになります。
生理学的なストレス、追い込んだときに出るホルモンが影響しているという説は、現在ではその影響は筋張力や筋損傷にくらべて小さいと言われてますので、割愛してもいいかもしれません。ただ、その生理学的なストレスを出すために活動限界までレップをこなすことで、筋細胞内のグリコーゲンが使い果たされ、筋肉内に「もっと部屋を大きくしなきゃ!」という反応が起こると考えられますので、筋形質性肥大を促すと考えられています。
誤解を気にせず簡単に言ってしまうなら「重い重量を扱いつつ、筋肉内のエネルギーを使い果たすように追い込むこと」が、筋肥大に特化したトレーニングと言えます。
漸進させるのは強度か量か、両方か
では内容に入っていきます。
先行研究では、強度を高めた場合も、量を増やした場合も、どちらも十分な筋肥大効果があったとされています。
また、比べる際の難しさとして、最大回復可能量というものがあり、これはパフォーマンスの一貫した回復が不可能な量のことを言います。
これの影響で、量と強度とその両方を増やすグループを3つ作ったとしても、それぞれの数値が統一できない(それぞれ3セット増やして5キロ増やすと、両方増やした群が一番大きな負荷になり、トレーニングのレベルが統一できない)ということが起きます。
ですので、完璧に比べた研究はないにせよ、それぞれの先行研究からこの疑問を紐解いていきましょう。
量を増やすことがとりあえずの正解
トレーニング歴の長い人などは経験でも理解していると思いますが、一般的には量と筋肥大の間に用量反応関係が存在することを示唆するエビデンスが多いです。
つまり、胸のトレーニングをメインセット合計3セットが限界だった人が、5セット、7セット、10セットと量を増やすことで、より筋肥大が起こったということです。
このことから、量を増やすことが、とりあえずの正解と言えます。
さらに、これは中、上級者になっても、「量が多いほど効果的」に筋が成長する関係が持続するということが明らかになっています。
これは、一般に考えられる反応の上限よりも、さらに上まで筋肥大の反応が起こる可能性があり、現在伸び悩んでいる人はセット数を増やしてみるといいかもしれません。
強度を増やすとどうなのか
強度は相対的強度(%1RM)のことを指して話していきます。
つまり、ベンチプレスのMAXが100kgの人が75kgでしていたトレーニングを85kgで行うようになった場合、筋肥大の効果はどうなのかということです。(逆もしかり)
これは、増加させる範囲によっては必ずしも筋肥大を促さないと言われています。
軽い重量でやっていても筋肥大しそうにないことは想像に難しくないですが、その理論値は30%1RM以下だと言われています。また、90%1RMで行うプログラムも、生じる疲労が大きく、最適な筋肥大効果を得るのに必要な量を蓄積するのに適さないことが明らかになっています。
つまり、両者をまともに扱えなくなるくらい行うよりも、50%~85%くらいの幅でトレーニングをした方が筋肥大には有利に働くということです。
両方を組み合わせるとどうなるか
先の話では量は増やすほどよく、強度は適切な範囲で高めるのが良いとされていました。
では両方を組み合わせるとどうなるのでしょうか。
これは数学的な量と比べた研究をみると面白いので見ていきましょう。
数学的な量とは一般に言われるボリュームです。(セット数×レップ数×重量)
つまり、理論上10回が限界の重さは75%1RM、20回が限界の重さは50%1RMなので100kgがMAXの人が同じく10セットしたとすると、前者は75kg×10回×10セット=7500kg、後者は50kg×20回×10回=10000kgとなります。この場合では数学的な量は後者の方が大きいですが、成長はほぼ同程度であったとされています。
このことから、強度が筋肥大を引き起こす可能性を示しているのが分かります。
この3つをまとめると。
筋肥大を目的とする場合、ワークアウトのセット数を増やすことが有効とされ、週おきにレップ数を減らして挙上重量を急激に増やすようなプログラムは最適ではなく、どちらかを据え置いたまま片方を増加させるプログラムが良い。
ということになります。
エビデンスの暫定的な総括
先ほどまとめましたが、エビデンスについても総括しておきます。
量の増加が筋肥大に効果をもたらすとする根拠は、合理的に妥当である。
負荷の増加がもたらす効果には潜在的な根拠があるが、量の増加に関する根拠ほど明確ではない。
そのため、プログラムにおけるワーキングセット数を増やすことが、筋肥大効果を高めるための効果的な方法になりうると思われる。
疲労の蓄積には限界があるため、セット内での漸進(セット当たりの重量やレップ数の増加)を行う場合は、代わりにセット数の漸進を抑えてバランスをとることが理にかなっている。
相対的強度の増加は、疲労を大幅に増加させる一方、セット当たりの筋肥大効果は向上しない可能性が高いため、筋肥大を目的とした漸進方法としては暫定的に除外することができる。すなわち、週単位でレップ数を減らし、代わりに挙上重量を急激に増やしていくようなプログラム(ある周は1セットにつき10レップ、翌週は8レップ、その翌週は6レップなど)は、筋の成長を引き起こす方法として最適ではない可能性が高い。
挙上重量を追加してレップ数を据え置く方法と、セット当たりのレップ数を増やして負荷を据え置く方法は、いずれもメゾサイクルにおけるセット内での漸進方法として妥当であると思われるが、どちらが優れているか、あるいはどちらかが優れているかは現時点では不明である。
現場への応用
ここまで、相対的強度での量を多くするトレーニングが筋肥大に効果的であるということを見てきました。では、実際のトレーニングに応用するにはどうしたらいいでしょうか。
基本的には各部位を週に1回ずつ鍛えていると思いますので、そのサイクルはそのままで考えていきます。
特に初心者であればまずは基本の10回3セットなどから始め、3セットを4セット、5セットと繰り返していくといいでしょう。その時、5セット目のレップ数は8〜10回が限度であるよう、各セットを調整する必要があります。
ここではインターバルについて述べていませんでしたが、筋肥大プログラムの基本が量を稼ぐことであることから、インターバルは完全回復の3分は取る必要がありそうです。
セット数を増やすと同時に、重量も少しずつ増やす必要があります。重量を少しずつ増やすことで、極端に相対的強度のゾーンから外れるのを防ぐことができます。ただ、これも研究では週に1.1kgずつが推奨されていたので、現実的には「1セットあたり12レップ以上できる」というのが重量を少し増やす目安になるかもしれません。
ただ、優先順位は相対的強度のゾーン内であれば、量を増やすことが効果的であると考えられていますので、どちらか迷った場合は量を増やすといいでしょう。
また、遺伝的因子には筋力が上がりやすい人、筋肥大が起こりやすい人がいるのも事実です。今回紹介した方法を頭の隅に入れつつ、自分に合った方法を試してみるといいでしょう。
個人的な考察
筋肥大には2種類あることは先に述べました。そしてボディビル的にはどちらの反応も起こしつつ、筋形質性肥大の反応を一般のトレーニング理論と比べて大きくする必要があるものだと考えています。
今回も相対的強度ゾーン(10RMなら10レップする)ということも、筋繊維をミクロ単位で見たらさらに理解が深まると思います。
要は「対象の部位の筋線維を全て使い切る」ということが、筋肥大トレーニングで押さえておく間違いのない方法です。
全て使い切る時、いつまでも軽い重さでしていると、使い切るのにかなりの時間が必要になります。逆に重すぎても運動単位の関係からまだ余力が理論上あるけれど持つことができないという状態になってしまいます。完全に管理されたトレーニングより、マンデルブロという主観で管理したトレーニングの方が筋肥大をしたという話もあるように、しっかりと全ての筋繊維を使い切ることができるのであれば、回数やセット数は理論の値を外れなければきっちりしたものでなくてもいいのかもしれません。
高強度ゾーン(セットあたり5~10レップ)で多くの運動単位を動員することで、筋を全体的に追い込み、疲労による筋出力の低下に合わせて中強度ゾーンの種目を行う。
フィラメント単位で見れば、筋肉的には7割くらいはまだ元気ということもあります。だからドロップセットやレストポーズ法などで各種目オールアウトさせ、筋肉内のグリコーゲンやエネルギーを搾りきる必要があるのです。
最近はSNSが普及して様々なトレーニングを見ることができるようになりました。
多くの人はボディメイクを目的にフィットネスジムに通われていると思いますので、見た情報、今回なら「量を増やすと筋肥大する!」というものだけを見るのではなく、その理由や原理まで理解することで、様々な情報を正しく見る能力が身につきます。
知って、実践して、身につける。このサイクルをぜひ回してみてください。