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指導者が意識すべきこと「モチベーションと動機」

  • 執筆者の写真: NAOKI TAMURA
    NAOKI TAMURA
  • 2020年6月20日
  • 読了時間: 12分

今回は心理学の学びの中から、「モチベーションと動機」について書きます。


2種類のモチベーション


モチベーションには主に2種類に分けられます。


一つは、「外発的モチベーション」と呼ばれ、外からの影響によるものです。

指導者に認められたい、報酬がもらえる、周りから評価されるためにetc

こういうのは全て外発的モチベーションです。


2つ目は、「内発的モチベーション」であり、自分の内側から出てくるものになります。

その行動自体に興味を持っていたり、試合が楽しみだからなど、楽しい、好き、自己決定的で有能でありたいという欲求からくるものは全て内発的モチベーションです。


外発的モチベーションは短期的、臨時的に選手の気持ちを高めるのに役立ちます。

選手のやる気を報酬を与えることで高めたり、負けたら走り込み!的な恐怖心を与え、気持ちを鼓舞させるのによく使用されます。


外発的モチベーションのデメリットとしては、長続きしないことが上げられます。


いくらお金を積まれても、時間が長いことかかるものは嫌気がさして、「あれ、別にお金いらないからやらなくていいや」「罰走でいいや」などという「ギブアンドテイク」の二分論的な考えにさせます。


その行動自体に価値を見出せないため、報酬であれば「行動の価値<報酬の価値」の間は大丈夫ですが、「行動の価値>報酬の価値」となれば、やる気は破綻するでしょう。(恐怖の場合も同じです)


内発的モチベーションは自己の意志決定によるものなので、長続きします。


例として、使命感を持った行動、「このためなら命を使える」と思うことは、たとえどんなに辛くても続けるのが人間です。 (それが崩れても、自己決定で決めたことというのは糧になります。)


理想としては、選手自身が内発的モチベーションのもと、試合や練習に取り組んでくれればいいのですが、そううまくいかないのも現実には多く見受けられます。


その時、往々にして指導者が取る行動が、報酬や恐怖心を与え、半ば強制的に行動させる外発的モチベーションを高めさせるテクニックを使用しています。


別に外発的報酬を使用することは悪いことではありません。

問題なのは、そこで選手に現れる「動機」です。



成功を勝ち取ろうとする動機(MAS) 失敗を避ける動機(MAF)


選手の行動というのは、それをどのような気持ちで行うかという「動機」によって決まります。


その動機には、 「成功を勝ち取ろうとする動機(MAS)」と「失敗を避ける動機(MAF)」の2つがあります。


この2つの両面をのうち、選手の中でどちらが優位かによって、行動が決まります。


成功を勝ち取ろうとする動機(MAS)


これは別名「達成動機(MS)」とも呼ばれます。 心理学の世界では、テストをすることにより、その人がMASよりかMAFよりかで、その課題に対する心理状況を評価します。

成功を勝ち取ろうとしていますので、失敗することをあまりネガティブにとらえません。

特徴として

・挑戦や自信の評価への欲求が強い ・困難な目標に対して努力する ・成功の確率が50%程度の状況に関心を示す というものです。


要は、物事をポジティブにとらえているということです。


失敗を避ける動機(MAF)


これも別名「失敗回避動機」と呼ばれます。

失敗さえ回避できればいいのであまり無理はしない傾向にあります。

特徴として

・自尊心を守る傾向が強い ・努力を怠るケースがある ・恥を避ける傾向がある というものがあります。


特に「努力を怠る」というのは、MASに比べて挑戦的でないため、失敗によって自尊心を傷つけたり、恥をかくことを恐れることから、そのような行動にでるといわれています。


要は、物事をネガティブにとらえているということです。


論文にはこうあります。

被験者が困難度の異なる課題の中から挑戦する課題を自由に選択でき, そして, その選択した課題の成功,失敗が即座にわかる状況で, フィードバ ックの予期以外に明白な外発的報酬が存在しない場合, 認知的評価理論は自己有能感の変化の過程を予測する. 高達成動機-低失敗回避動機 (以下Ms>Mafと略す) の 被験者はこの状況を自己有能感を獲得する機会と認知するであろうから, かれらの内発的動機づけは高くなり, 最適挑戦課題を探索してそれに挑戦するであろう, 他方, 低達成動機-高失敗回避動機 (以下Maf>Msと略す) の被験者はこの状況を自己有能感を脅かすものと認知するであろうから,この状況を回避したいと思うに相違ない. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy1926/53/5/53_5_281/_pdf

このMASとMAFは、その人の性格でもあるので、変えるのは容易ではありませんが、アドラー心理学の「性格は変えられる」という言葉にあるように、経験や考え方で変化していくものでもあります。





外発的モチベーションテクニックは、内発的モチベーション下げる


ここからは、外発的報酬によって内発的モチベーションが下がるという論文を紹介します。


また、先ほどのMsとMafについても深堀りしていきたいと思います。 (ここからはMASをMs、MAFをMafとします)


対象:小学6年生男女224名 グループ分け:あらかじめMs寄りかMaf寄りかを評価するテストをおこなった。その結果をもとに、「Ms>Maf群(Ms群)」「Maf>Ms群(Maf群)」に分けた。 更にそこから、報酬(外的報酬)を与える「報酬有Ms」「報酬有Maf」 報酬のない「無報酬Ms」「無報酬Maf」の4つに分けた。 実験方法:輪投げ 難易度別の方法で輪投げを実施

面倒なので、論文から引用

課題 輪役げ 被験者は標的から 25 cm 間隔で 400 cm までの 16段階の困難度の中から、投げる距離を選択する. 被験者数は,報酬条件の M > Mar 群(19名),Mar>M。群 (35 名),無報酬条件の MS> Mar群(33名), Mar>M,群(30名)である. 手続き 実験は練習試行(自由3試行,規定7試行)と検査試行(1試行)からなっており,通常の学習時間帯に小学校の体育館で学級単位で実施された。 1. 練習試行:各実験補助者はそれぞれの班を体育館の一隅に誘導して,次のように自由練習についての教示を与えた.“投げる位置はこの赤いテープがはられている所からです[床に 25 cm 間隔でテープがはられており,その横に25cm,50cm…400 cm と書いてある].はじめに3回練習しますが,自分の好きな所から投げて下さい。1回毎に距離を変えてよろしい.練習ですから楽な気持ちで投げて下さい.” 教示後,被験者は自由練習を行なった. 次に,規定練習についての教示が次のように与えられた “これで皆さんは3回づつ練習したわけですが,今度はこのカードが置かれている所から投げる練習をします。カードは 50 cm, 100 cm, 150cm…350 cm の7枚ですから、練習は7回です.50 cm, 100cm, 150 cm…の順で投げて下さい。” 教示後,被験者は規定練習を行ない,それが終り次第,最初のあいさつが行なわれた場所に誘導された. 2. 検査試行:報酬の有無は次のように操作された.(a) 無報酬条件 実験者は被験者に輪投げは1回しかできないことと,高い得点を取ることを強調して次のような教示を与えた“これで皆さんは合計 10回の練習をしたので大分上手になったと思います。では、本番の説明をします. 私たちは皆さんがどれくらい上手に輪投げができるか知りたいのです.皆さんの好きな所から投げて下さい。 投げるのは1回だけです。成功した場合の距離が皆さんの得点となります。だから, 50 cm から投げて成功すれば 50 点, 4 m から投げて成功すれば400 点です。失敗すればもちろん 0点です。できるだけ高い得点を取るように頑張って下さい.” (b) 報酬条件:報酬条件への教示は,無報酬条件への教示の後に,次のような教示が加えられた“それから輪投げに成功した人には賞品としてこのレポート用紙 〔被験者にみせる]を1冊きょうの下校時にさし上げます。どこから投げても,成功すればもらえます.”以上の教示の後,被験者は再度各班に分かれて,検査試行を行なった。 1. 内発的動機づけの測度:これは,被験者が検査試行で挑戦する標的までの距離であるが,同じ距離でも被験者ごとに成功の確率が異なるので,標的までの距離をそのまま測度とすることはできない。そこで,本研究は,検査試行で挑戦した標的までの距離と練習試行で成功した最長の距離との差 (Discrepancy value :以下D値と略す)をとり,このD値を内発的動機づけの測度とする.D値は要求水準の研究にみられる目標差スコアに類するもので、内発的動機づけの行動測度として最適と考えられる.D値が0または正の比較的小さな値であれば、中程度の困難度を選好したことになり、内発的動機づけが高いことの指標となる.一方,D値が負の値や正の比較的大きな値であれば、極端な困難度を選好したことになり,内発的動機づけが低いことの指標となる.2. 成功率:これは、検査試行における成功率であり,内発的動機づけの間接的測度となる. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy1926/53/5/53_5_281/_pdf


結果










結果は、 無報酬Ms 48.5% 報酬Ms 63.1% 無報酬Maf 26.7% 報酬Maf 85.7% でした。


「挑戦的」とは、可能性が50%の時である


まず、無報酬のMsとMafを見たとき、数字にかなりの差があることに気づくと思います。

これは、最初の文にあるように、成功を勝ち取ろうとする動機の強い人は、成功率が50%の目標に強い関心を示すことを表しています。(この場合は輪投げが入るか入らないかの距離で投擲したということ) そして失敗を避ける動機の強い人というのは、無報酬(自己評価や先生の「がんばったね」しかない)の場合、極端に簡単な課題か、極端に難しい課題を選ぶ傾向にあります。 この実験の場合ですと、テスト前の練習段階で1mの距離が成功率100%、2mだと50%としたとき、テストでは練習したこともない4mの位置から投げるというものです。 これは、次のように説明されています。


無報酬条件のMaf>Ms群は極端なリスクを選好し、その成功率は非常に低かった.極端に低い成功率は課題に真剣に取り組んでいないことを意味する.極端に低いリスクの選好は,低い内的,外的評価しかもたらさない不合理な行動のようにみえる.また,極端に高いリスクの選好もその成功確率が非常に低いので,たとえ成功した場合でも,本人を含めて多くの他者がその成功因を幸運に帰属させるから、やはり不合理な行動のようだ.極端なリスクの選好と課題に真剣に取り組まない行動は,自己有能感を脅かす実験状況を回避したいが回避できない被験者の苦肉の策なのである. Maf>M群はこの一見不合理な行動によって、かれらの能力を内的にも外的にも正確に評価できない状況をつくりだして,自己有能感の喪失を回避したのである.その代償として、かれらは自己有能感の獲得の機会を放棄したのである.したがって,無報酬条件の Mag> Mg群のリスク・テイキング行動は、内発的動機づけによる行動の回避といえる.

つまり、自尊心を脅かすその状況自体を回避したいがためにとる行動ということになります。


そして面白いのがもう一つ


報酬があった場合の「成功を勝ち取ろうとする動機」が強い人の成功率が上がっていることです。


これは、報酬有のMaf群の結果が異常に上がっていることから、「ご褒美もらえるなら成功させよう」「どこから投げても成功なら確実に決めれるほうがいいよね」という思考を、どこか予期させられていたということになります。


自己ベスト、成功率50%のギリギリで勝負をして、その挑戦や、成功によって自己有能感を得たいが、そうすると報酬がもらえない。

報酬をもらおうとあんぱいな位置から投げると、それは自尊心を傷つけるのではないか。

そんな葛藤が、「成功を勝ち取ろうとする動機の強い人」には生まれるのです。


結果、この成功率には有意差(科学的根拠の差)は見られなかったので、確実に外発的報酬が被験者の挑戦心を下げたとは言えませんが、影響をあたえたのは確かだと思います。



報酬を与えるのは、長期的にみてよくない


最終的にこの論文は 「フィードバックや情報的な外発的報酬の予期は、成功を勝ち取ろうとする動機の強い人の内発的動機づけを高めるが、失敗を避けようとする動機の強い人の内発的動機づけを低める。賞品などの外発的報酬の予期は、動機の強さに関わらず、内発的動機づけを下げ、外発的動機づけを高める」 とされています。


つまり、やる気のある人間は、賞賛や自分の評価によってモチベーションの好循環を起こしますが、そこに賞品などの外発的報酬が出てくると、行動に自己性がなくなり、長期的に見て、外発的報酬がないとやる気のおこらない失敗回避型人間になってしまうということです。


指導現場にて


実際の指導現場では、「勝ったら走り込みをなくす」「勝ったらご飯にいこう」などという「強化」や、「負けたら罰走」「負けたら謹慎」などという「罰」を与える外発的報酬によって選手を管理しようとしています。 (まだ強化を使っているならいいのですが、罰を使っているのは最悪です)





先の研究から「外発的報酬はどのみちよくない」と言われてますから、どうすればいいのか。


答えは選手が全員「成功を勝ち取ろうとする動機」の強い選手になればいいのです。


そのために必要な考えは、その選手が課題に対して取った行動を観察し、選手の心理を理解することで、適切なアドバイスを与える。というものになります。


簡単ではないです。


しかし、せめて今回の研究にもあるように、極端な挑戦をしている選手は失敗を回避しようとしている、50%のギリギリで挑戦している選手は成功を勝ち取ろうとする動機が強い、という判断の引き出しは持てたと思います。


また、このような「自分の心理状況」というのを、選手自身も理解することで、自分のメンタルに対して向き合うことができるのではないでしょうか。


また、アドラー心理学では、「選手をほめるのではなく、勇気づける」というのがあります。

成功を勝ち取ろうとする動機の人も、失敗を回避しようとする人も、同じく「課題を何らかの方法で解決」しようとしているのは確かです。

問題は目線が失敗よりか成功よりか。


成功よりなら、自己ベストを出そうとしている(内発的モチベーションが高い)のですから周りの評価なんて関係ない。

自己ベストを出したいだけなんです。

だったら、そこで必要なのは、褒めてくれる人よりも、自己ベストを出すためにサポートしてくれる人、勇気をくれる人、となるわけです。


失敗よりなら、失敗が怖くて回避しようとしている心理を勇気づけることが、どれだけ心をポジティブにするか、想像に難しくないと思います。


報酬は与えない。成功を後押しする


この思考を忘れてはいけません。

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