目で崩す稽古

相手を「目で崩す」にはどうしたらいいのか、ということを稽古してみた。

もちろん、実際に使えるかどうか、耐えている相手に効くかどうかは応用の話なので、今は一旦置いておく。

今の段階では、視覚情報だけで相手の重心や安定性に影響を与える構造があるのか、そこを探ることを目的にしている。

まず、実際にそれをやっている人として思い浮かぶのが、武道家の日野晃さんだ。

実際に見たことがあるので、条件がそろえば少なくとも「起きうる現象」ではあるのだと思う。

その話によると、両手を軽く押し合った状態で、横に相手を崩す動作を「目」で行っているらしい。

なるほど、両手を合わせた状態で相手を崩す感覚自体は、なんとなく理解できる。

ただし、実際にやってみると、この物理的に接触している状態ですら安定して崩すのは難しい

だから本来であれば、まずは

「接触がある状態で、確実に崩せる」

という段階をしっかり作るべきだと思っている。

とはいえ今回は、知り合いに手伝ってもらい、あくまで実験として「目での崩し」を試してみた。

こういう場合、僕がやるよりも、相手にかけてもらった方が理解しやすい。

なので、自分が崩れやすい状態を作り、最低限の説明だけして、相手にやってもらった。

結果として、少なからず重心が動く感覚はあったし、実際に少し崩れそうにもなった。

ただし、横に崩れるというより、わずかに下方向が混ざっていた印象がある。

そのせいで、無意識のバランス反射が働いてしまったのかもしれない。

どちらかというと、空間ごと真横に移動させられるような感覚の方が、崩れやすそうだと思った。

整理すると、今のところの仮説はこうなる。

目線や、いわゆる「殺気」のようなものを拮抗させたまま、

その関係性を壊さずに、

全体の空間が横にずれる。

そのとき、自分は崩れない程度に中心をこちら側に残し、

相手だけが「ついていってしまう」。

吹き飛ばすようなイメージは、今の段階ではあまりしっくりこない。

むしろ「少し移動させられている」「気づいたらずれている」くらいの感覚で十分な気がしている。

ここからは、個人的な仮説になる。

同じ「崩す」でも、

視覚情報を自分の後方へ飛ばすような使い方があるのではないか、という考えだ。

相手からすると、

それまで寄りかかっていた対象が、急に遠くへ行ってしまう。

その結果、前方へ重心がずらされる、という構造。

これは、自分で試すこともできる。

目をつむったまま近くを見ている感覚を作り、

そこから急に対象物が遠くに行くイメージをすると、

確かに重心が引っ張られる感じがある。

転ぶかと言われると微妙だが、

「重心が動く」という現象自体は確認できると思う。

もう一つは、「立っている」という前提そのものを崩す方法。

そもそも人は、重力との関係性の中で立っている。

腹の力、膝の力、足裏の感覚などによって、

「立たされている状態」を維持している。

そこに対して、

「立たなくていい」

「支えなくていい」

という雰囲気をつくることで崩す、という方向性も考えられる。

正直、ここまでいくと催眠術に近い領域だと思うし、

今の自分ができるかどうかはまったくわからない。

ただ、もしここまでできたら相当面白いし、

重力・視覚・認識の関係性を扱う稽古としては、かなり奥行きがありそうだ。

まだまだ仮説段階だが、

こうして分解して考えていくと、

「目で崩す」という言葉の中にも、いくつか全く違う構造が含まれていそうだと感じている。